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November 1, 2018

未利用分の容積率を売却

日本橋、首都高地下化計画で注目

日本橋川の真上を通る首都高速道路の地下化に向けて議論が進む中、新聞報道によると「空中権」を隣接地に売却することで地下化工事の資金を獲得するとの構想があるようだ。「空中権」とは当該土地において空中を利用できる権利のことで、未利用となる容積率の一部を他の建物へ移転(売却)することを意味する。建築基準法では、未利用容積率を隣地等の再開発へ移動させることで再開発物件はその分の容積率を積み増すことができ、容積率を売却した既存建物のオーナー等は売却金が得られる。東京駅駅舎が復元工事費用約500億円を捻出するために、空中権を近隣の「新丸ビル」や「グラントウキョウ」等、6棟のビルへ売却したのは知られるところだ。

容積率譲渡が増加の気配

JLL日本戦略コンサルティング/バリュエーションチームでは、これまで容積率を移転することを想定した場合の価値についてのシミュレーションや、容積率の移転があった不動産について鑑定評価を行ってきた。しかし、その需要は非常に限定的だ。超高層ビルが建つような都心部の高度商業地では、近隣に低利用地があれば未利用容積率を買って活用したいという需要は既に多いはずだが、土地所有者は現状の低利用地が潜在的な価値(空中権)を持っていることについて気づいていない。しかし、個人の地主や一般事業法人等の低利用地所有者が資産価値の最大化を検討する中で、隣接・近隣地での開発に乗じて、容積率を譲渡するケースは今後増えてくると推測する。
容積率評価の基本となるのは、容積率を移転する前後で土地の価値を査定し、移転前後の価値の差分を基礎として移転容積率の価値を判定するという考え方だ。
通常、移転前後の土地の価値の差分そのままではなく、差分に一定の率を掛けて移転容積率の価値を判定する。容積移転の方法にもよるが、容積率移転によって譲り受ける権利は土地の所有権等と比べて弱かったり、永続的でなかったり、市場で当たり前に取引されているものではない。市場性が劣ると考え、一定の減価が必要になることもある。
なお、容積率移転前後の土地の価値の差分については、容積率を譲り受ける側の土地だけでなく、容積率を譲り渡す側の土地についても査定し、売り主が容積率移転により被る経済的不利益がどの程度あるのかも考慮する必要があるだろう。

容積移転に制度上の制限

ただし、容積率の移転が可能なケースは非常に少ないのも事実である。前述した東京駅のケースは「特例容積率適用地区(特例地区)制度」を活用して容積率の移転を実現したものだ。2000年に新設された特例地区制度では同じ区域内であれば敷地が隣接していなくても容積率の一部を複数の建築敷地に移転することが可能になるが、実際に特例地区に指定されているのは全国を見回しても「大手町・丸の内・有楽地区」のみ。国土交通省は当該制度の積極的な適用を奨励しているものの、特例地区の指定には都市計画決定を経る必要があり、新たな適用例がない。
このほか「特定街区制度」においても、同一街区内または隣接する複数の街区内の土地間で容積率を移転することができるが、この制度も都市計画決定を経なければならないため手続上のハードルは高い。
都市計画決定を経ずに容積率を移転する方法としては 、「一団地の総合的設計制度」や「連担建築物設計制度」がある。建築基準法には一敷地一建物という原則があり、隣接する土地を一体的に開発して複数の建物を建築する場合でも、それぞれの建物と敷地が容積率、斜線制限、接道義務などの基準を満たす必要がある。一団地の総合的設計制度は、この要件を緩和するもので、特定行政庁が、一定の基準に照らして支障がないと認めた場合には、複数の敷地を一つの敷地とみなして、上記基準を満たせばよいことになる。一つの敷地とみなされるため敷地間での容積率の移転も可能である。連担建物建築設計制度は、新たに建物を建築する敷地間だけでなく、既存建物が所在する隣接敷地も含めて一敷地とみなす制度である。これらは、都市計画による地域地区等の指定は不要であり、特定行政庁の認定を受ければ済むため、適用は比較的容易であるが、容積率の移転は隣接敷地間でしか行うことができない。

隣地で再開発、検討の価値あり

適用範囲は限られるものの、容積移転が可能か検討するだけでも価値がある。大手デベロッパーが手掛ける大規模再開発では容積移転によって床面積が増し、坪当たりの賃料も跳ね上がる。低層建物を保有しており、今後建替えの計画がない場合、未利用の容積率を大規模再開発へ移転することで、自分の土地上で利用する以上の価値が実現し、その売却益から、自社物件の修繕等に充てることも可能となる。既存建物の他、学校、お寺や墓地など、半永続的に存在しながら容積未消化の土地は都心にも多く、空中権の資金化の可能性が高い。
仮に容積率の売却は実現しなかったとしても、未消化の容積率を含め所有地がどのような潜在価値を有するのか、不動産の最有効使用の観点から検証、把握し、保有資産の価値最大化を図ることの重要性は増しており、その際には、「不動産鑑定のプロ」の知見を活かすべきではないだろうか。
(著:JLL日本 神山 繁一)

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