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March 19, 2019

東京や大阪、京都といったメジャーな観光都市には高級ホテルが多数存在するが、インバウンドの急増を背景に地方自治体自らがホテル誘致に取り組むケースが見られるようになってきた。アドバイザーを公募し、ホテル誘致の可能性を模索する。街づくりの中核拠点としてホテルに寄せられる期待は想像以上に大きいようだ。

外資系高級ホテルが地方都市へ

JLL日本 ホテルズ&ホスピタリティ事業部は2018年8月、兵庫県加東市より宿泊施設誘致に係る調査業務を受託した。将来を見据えたまちづくりの一環としてホテル誘致に向けて多方面から調査・分析を行った。
本事例を含めて現在地方都市が積極的にホテル誘致に動いている。コンサルタントを起用しマーケット調査を行う他、デベロッパーやオペレーターに対して助成制度を拡充している。中でも耳目を引くのは外資系高級ホテルの誘致計画だ。奈良県が計画する大型再開発事業「大宮通り新ホテル・交流拠点事業」の中核施設にマリオット・インターナショナルグループの最高級ブランド「JWマリオットホテル奈良」の誘致が決定した。一方、福岡市では「天神ビッグバン」の本丸となる大名小学校跡地の再開発事業で、積水ハウス、西日本鉄道などの事業グループが「ザ・リッツ・カールトン」の誘致を提案し、優先交渉権者に選ばれた。さらには広島県が主導する広島市富士見町地区へのホテル誘致計画では、中四国地方で初となるヒルトンが運営事業者に選定され、金沢市では金沢駅西口にある市有地の暫定駐車場跡地でホテルを開発。ハイアット・ホテルズ・アンド・リゾーツが進出する。
従前に比べてホテル誘致に向けてアドバイザー等を公募する地方自治体は明らかに増えている。公募条件に「当該自治体に登録している企業」という制約を設けるケースは依然として多いが、外資系高級ホテルの誘致実績の豊富な我々のような外資系不動産サービス会社にも少しずつではあるが、門戸が開かれている。

MICE 誘致も大きな目的

外資系ホテル誘致を目指す理由の1つは、増加するインバウンド等によって拡大した宿泊需要の流出を防ぐのが狙いだ。奈良県の「JW マリオットホテル奈良」が好例だ。世界遺産や重要文化財の数は全国屈指でありながら「ホテル不足」は顕著。厚生労働省の発表した「平成28年度衛生行政報告例」によると奈良県のホテル・旅館の総客室数は8,690 客室で、近隣の京都(37,650客室)や大阪
(80,869客室)を大きく下回り、全国で最下位。一方、日本政府観光局の「都道府県別インバウンド訪問率」は全国7位とギャップが大きい。日系の老舗高級ホテル「奈良ホテル」は存在しているものの「外資系高級ホテル」のグレード帯が皆無だったことから、外資系高級ホテルの誘致はかねてからの「悲願」といわれていた。従前、奈良に富裕層が観光目的で訪れても相応の宿泊場所がない。近隣の京都や大阪の高級ホテルに宿泊してしまう。こうした宿泊需要の流出を食い止めるには、行政トップが問題意識をどれだけ持つかがホテル誘致の鍵になる。
また、MICE誘致を睨み、国際会議場の整備と共に高級ホテルの誘致を目指すケースも少なくない。例えば、前述した福岡市は2019年に日本で初開催となるG20首脳会議の誘致を目指していたが、最終的に大阪市に競り負けた。落選理由のひとつに「世界のVIPが宿泊する高級ホテルが少ないこと」があげられている。また、群馬県高崎市が先般高級ホテル招致調査に係る公募を実施したが、再開発によるMICE誘致への対応といった側面を持っている。これはMICE施設が充実していながら高級ホテルが少ない奈良県の状況と似ている。
MICEを1つでも誘致できれば地元経済が潤うため、どの地方自治体も積極的になり、それに伴いホテルの整備が必要不可欠になる。

観光地化が可能か、模索する地方自治体

ただし、高級ホテル誘致が現実的に可能なのは宿泊需要が見込める地方都市、観光地として一定の地位を確立しているエリアに現状限られてくる。そもそも宿泊需要があれば民間業者が独自の判断でホテルを開発するが、そうでなければ高崎市のように再開発等で新たな宿泊需要を喚起する他ない。また、ホテル開発が最有効活用となる用地を自治体が保有していればデベロッパーを公募することで事足りるが、開発用地が手当されていない状況からホテル招致の可能性を探る「前段階」的な動きが目立つ。ホテル誘致の調査を行った結果、事業採算性が見込めないとの判断に至るケースもあり、デベロッパーやオペレーターを公募してはみたものの1社も応札がないことも少なくない。その半面、小学校跡地や駐車場等、有効活用されていない公共用地に対する最有効活用策としてホテルを誘致するパターンは多い。前述した金沢駅前のホテル開発事例や、京都市の元清水小学校開発プロジェクト(NTT都市開発の初の直営ホテルでプリンスホテルに運営委託)、元立誠小学校跡地活用事業(ヒューリックが上層階に自社グループ運営ホテルを誘致)等が典型例だ。いずれも豊富な宿泊需要が見込める観光地である。
地方都市の公募案件を見ると、インバウンドを誘致するための戦略アドバイザーを募集しているケースが目立つ。観光地化を模索する地方自治体は多いものの、具体的にホテル開発の後押しになるほどの宿泊需要を喚起するまでには至っていない。現状、特定の観光需要が見込める地方の中核都市でホテル誘致の動きは活性化しているが、全国的なトレンドとはいえない。しかし、街の中心地を作る際ホテルがあるとその後の発展を促すことができる。宿泊の受け皿があれば、後々MICE施設等を開発していくことができるのではないだろうか。
少子高齢化による人口減に喘ぐ地方都市において、観光客の誘致は地元経済の活性化のためには避けては通れない。すべての地方自治体が有望なホテル用地を有しているわけではないが、外資系高級ホテルを誘致することはインバウンド集客に寄与し、観光地としての価値を押し上げることにも繋がる。街づくりの観点からもホテル誘致の可能性を模索する地方自治体はこれまで以上に増えていきそうだ。
(著:JLL日本 中村 健太郎)

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