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February 14, 2017

2016年12月15日未明、通称IR推進法は衆院本会議で自民党などの賛成多数で可決、成立した。巷では「カジノ合法化の是非」とそれに関連する「ギャンブル依存症問題」ばかりに焦点が当たっていた感があるが、日本国としてIRを導入する社会的意義を議論するうえではもう少し別の視点が必要だ。

IR推進法とは

IR推進法は正式名称を「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」と言い、特定複合観光施設(Integrated Resort)とはカジノ・会議場・レクリエーション施設・展示場・宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設をいう。法案には、IRの整備は国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現し、地域経済振興・財政改善に寄与するとともにカジノ施設の収益が社会に還元されることを基本として行われる、とある。表面的にはMICEビジネス(会議・コンベンションを主体とする集客ビジネス)の推進、実質的にはカジノ解禁を狙った法案といえる。近隣諸国では、既に韓国、マカオ、フィリピン、シンガポール、サイパンなどでカジノが合法化されているが、カジノ単独施設での収益性は必ずしもよくない前例を踏まえ、複合観光施設内に併設する形が想定されている。IR推進法は枠組だけを決めており、ライセンスが付与されるオペレーターの要件や立地選定基準など投資家の関心事に答えられる内容は、1年後を目処に作られるIR実施法に規定される見込みである。

IR推進法上の主な論点は、ゲームの公平性確保・暴力団の関与排除・青少年保護・マネーロンダリング対策・ギャンブル依存症対策などである。特に、カジノ合法化以前の問題として、既に公営ギャンブルとパチンコによるギャンブル依存症と疑われる人が厚生労働省推計で536万人と発表されており、これまで対策が放置されてきた実態が改めて浮き彫りとなった。また、刑法に規定する賭博罪の例外を作ってまでギャンブル合法化を行なうべきなのかという「そもそも論」も整理しきれていない。

カジノターゲット顧客は誰か

しかし、検討すべき論点はそれだけではない。制度設計上の最大の論点は、カジノ利用者のターゲットを訪日外客に絞るのか、日本人も主要ターゲットにするのか、という点だ。もし、訪日外客ということであれば、直接競合しそうなシンガポールのIRに比して競争力のある商品を作らなければならない。例えば、耐震性能を重視しなければならない日本では、建物形状への制約が自ずと大きい。また、還元率(掛金に対する賞金払戻額の比率)はシンガポールのIRでは90%超と言われているのに対し、日本の公営ギャンブルは70-80%程度、パチンコでも90%未満とされている。仮に国際競争力を意識して高い還元率を設定するとなると、何故IRが優遇されるのかの理由付が必要となる。また、訪日外客が訪れやすい立地、即ち近隣に国際空港があるかどうかや空港からの公共交通機関が発達しているかが立地選定要件として重要になってくる。

もし、日本人も主要ターゲットとするとなると、国庫や地方自治体への納付金が大きい公営ギャンブルから還元率が高く納付金比率が低いと目されるIRへのデマンドシフトをどうコントロールするのかが大きな課題だ。また、日本企業は海外の多国籍企業に比べて「遊び」と「ビジネス」を組み合わせたMICEにあまりお金を使わないため、日本企業を主要ターゲットとするとIR内非カジノ施設の収益性やIR導入理念そのものが問われる可能性も否定できない。IRは単に作れば儲かるというものではないし、シンガポールと異なり先行する既存ギャンブルとの整合性をとる必要もある。IR実施法の立案にあたっては、広い視野と知見を持った緻密な制度設計が期待される。

(著:JLL日本 沢柳 知彦)

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